ビスタワークス研究所の志事(28) 文・大原 光秦
想ふこと、鑑みること、徒然なるままに~令和4年を省みて~
本年は「いのち」を巡る思惟の尽きなかった1年となりました。年初早々にTabio創業者、越智直正さんの訃報が届きました。敬愛していた私個人の落胆もありますが、なにより大勢の社員や同志の方々の無念を想像するに余りある出来事でした。夏には同志として未来を誓った唐津の平岡務さんの死、また秋には親しくさせていただいた沖縄教育出版の創業者、川畑保夫さんも逝去。高知に住まう身近な存在も多く旅立ちました。メディアからは安倍元総理、稲盛和夫さんはじめ有力者の訃報が立て続いて報じられ、ご冥福を心よりお祈りすると同時に、遺る者の責務として、いよいよ力勁く邁進せねばと身と心の引き締まる年の瀬を迎えています。
必然、当誌面は死の香が漂う記述が多くなりました。私が「現世と常世」を見つめる変性意識状態にあるということに尽きるのでしょうが・・・私に限ったことではないものとも思っています。中今をいきる私たちの全体に「いのち」が問いかけられている、そんな時代であると考えるのです。
ともあれ今回のかわら版では、11月に開催した「トヨタビスタ高知~ネッツトヨタ南国、42年の軌跡セミナー」に絡めてお話ししてみましょう。
何処に向かうのかSAMURAI CHAIN~ 志で繋がる ~
このセミナーは舞台劇「流れる雲よ」高知公演に連動して開催しました。昨年は「土佐の旅」の特別プログラムとして2人芝居をご覧いただきましたが、今年は私どもが運営に関わる、高知県経営品質協議会を主宰に据えて6人の演者さんで3公演を催しました。「特攻隊」について偏った先入観を持つ人間が少なくないこと、コロナ禍はもとより文芸に触れる機会が少ない高知県民にどれだけ受け入れられるか、と勘案しましたが、時代は「備えよ」の機運。思い立ったら実践躬行。「どうやるか」は後から考えることです。
初演には「息吹」プロデューサーの下村一裕さんが演者の女子高校生二人を連れて會津から駆けつけ、歌と踊りを披露してくれました。もちろん多くの示道塾同志も全國から駆けつけてくれました。3公演の前後で、「大東亜戦争・特攻隊出撃の歴史的文脈」、「中今をいきる私たちの使命」を来場者に考えてもらうために、私のショート講話とオリジナル動画を交えたり、最終公演では横田英毅が感涙しつつ「閉会のことば」を述べたり・・・高知らしいコラボレーションに満ちた「流れる雲よ」公演になったものと思います。なにより、高知の経営者仲間たちがよく奮闘して来場を促し、また小社の関連である西山グループを筆頭に、多くの組織が資金面でバックアップしてくれました。志に感謝です。
嬉しかったのは、少人数ながら志を同じくする教員や生徒たちが個の繋がりで参集してくれたこと。高知の公教育行政に呼びかけましたが組織としては動くに至らず、それは無念ながらも想定内。「今年の漢字」が「戦」に決まるこの時代にあって「戦争を知らない子どもたち」は増えるばかりです。
ビスタ高知~ネッツ南国
42年の軌跡
メイン企画である3者対談は、私の進行のもと、創業者の横田と現社長の伊藤俊人が参画者から寄せられた問いに見解を述べる、という形式としました。通常は基調テーマを打ち出してから進めるものですが、今回はいきなり質疑応答です。ほとんどが示道塾参画歴のある皆さんにあっては「そりゃそうだね」と即座に了解。しかし、この顔ぶれで「問い」を立てるのは相当な難しさがあります。裁き役が大原なのですから試されている感じもなくはない。・・・何を聴こうか、どう問いを立てようか、と苦悶している様子でもありました(笑)。ホワイトボードの写真は、その問いと回答のキーワードをサクッと板書したものですが、ご覧の通り、組織を理想的状態に向かわせるうえでの心や考えの揃え方のポイントを得ようとするものが大半でした。
社長の伊藤は、社会的に認知される成熟段階を迎えたネッツ南国の経営を承継しました。トヨタ全車種併売への移行とそれに伴うグループ企業のホールディングス化、コロナ騒ぎ、新車供給遅滞などなど、激変する環境のなかで舵を取る毎日。質問に回答しつつ、「こんな答えでいいですか?」と、質問者の反応を探りながらのやり取りが続きます。
潜在意識とはパワフルなものです。「軌跡」に焦点を当てているセミナーとわかっていながらも、「今、どうやっているのか」の情報を得たくなる。回答者が「この話で役立てるのだろうか」と逡巡するのは無理もないところでしょう。「今」に焦点を当てた質問に回答をしても、持ち帰り応用していただける事は少ないと知っているからです。「全社員を勝利者にする」ためにシームレスに最適化してきた社会システム。共創的な人間関係により紡がれた組織は、あらゆることが有機的に結び合って「生命体」に近いものとなります。無用と思えることが有用となり、効率的と思えない活動が効果を生み出す。人体のメカニズムを合理的に説明できても、その脳が何を想いどう生きるのかは解き明かせないようなものです。いつ、どんな出来事があり、誰がどのように解決に向かわせてきたのか、といったことをナラティブな物語として聴き出せると有用性が高い情報となります。問題認識の揺らぎや解決方法の選択、対話、試行プロセスなど、「やっていること」「考えていること」という現象の高次、すなわち抽象度の高い「上位概念」のところにある文脈を掴むと、文化や風土の異なる組織への転用も可能となります。来年から始まる第11版示道塾がテーマとするところですので、共に追究して参りましょう。
私たちは何処から来て、そして何処に向かうのか
さて、軌跡セミナーのタイトルに据えたこの文言は、トヨタビスタ高知時代の会社紹介リーフレット第1号(1984年)に載せたものです。ポール・ゴーギャンの絵、我々は何処から来たのか 我々は何者か 我々は何処に向かうのかというタイトルに依拠したメッセージ。日本経済がバブルピークへの加速度を増していく時代。学生の興味を引きにくいこの「問い」で会社を表現したわけです。学生だった私が初めて会社を訪ねた時にこの古いリーフレットをもらい、横田にその意図を聴きました。「都築さんの提案がきっかけでね。学生受けはしないと思ったけど、一回やってみようか、と思って」と話してくれた記憶があります。当時の私は、この会社は「普通の学生」を採用する意志がないのかな、と受け止めました。これに反応する学生がいたら面白い、と賭けてみる尖ったセンスに興味を持ちました。
「たぶん採れないだろう、でも(試してみよう)」。この「でも」の感性と決断が、2022年の「いま」を創り上げてきた、と言えます。大げさに感じられるかもしれませんが、魂はディテールに宿ります。意志決定の分水嶺は、ことの大小に強くは依存しないフラクタルな精神構造だと考えます。「でも・・・」と囁いた小さな棘にこころを寄せ、希望を見出し、一歩を踏み出すことができるかどうか。リーダーシップとは生き様の投影だと申し上げている所以です。
人間は微睡みながら歩いている。
それすら氣付かずに
G・Iグルジェフ
我々は何処から来て、何処に向かうのか。ゴーギャンのオリジナルにある、その主体を確かめる「我々とは何者か」の問い。それを明らかにしない限りにおいて、何処から来ようが、何処に向かおうが、問題にはならない。横田から採用任務を引き継いだ私の志事こそが、それを求めて社員と話し合い、學生たちに問いかけることだったのです。本年は、大和経営塾を土佐、會津、信州松本の三拠点で開催し、経営の「VISTA」すなわち「我々は何処から来たのか、我々とは何者か、我々は何処に向かうのか」について深く対話しました。来年は高志之國・富山を始め、順次開催する計画です。困難な時代を見据えた日本示道塾・互助共道隊の礎石とするものです。
いつか越智直正さんが話してくれたことがあります。
『アメリカのハーバードなんとかいう大学がウチの取り組みを、先進的な「サプライ・チェーン」ですね、とか言うてたけどな、そんなんとちゃうでって言うてやりましたんや。ウチのはな、サムライ・チェーンや、言うてね』。
その言葉を胸に、実践の日々を生きて参ります。
※1 舞台劇『流れる雲よ』:演劇集団アトリエッジによる演劇。大東亜戦争末期、沖縄への特攻作戦に備える航空基地に現代のラヂオ放送が流れ、後の歴史を知ることに。それが真実ならば、出撃することに意味はあるのか…苦悶する若き飛行兵と整備兵。彼らの真の友情と心定めを追う物語です。
※2 高知県経営品質協議会:1993年4月発足、経営改善に向けたプログラムを実践し成果を上げた企業の事例を学び、これらの企業が取り入れた「経営品質プログラム」についての理解を深め、自社の経営品質の向上を図ることを目的としています。
※3 現代版組踊『息吹』:沖縄の伝統芸能「組踊」の様式をベースに、現代的な「音楽」「舞踊」「台詞」の3つの要素で構成された舞台様式。奥会津を中心に全国から参加する小中高校生が、南山義民小栗山喜四郎を中心として描いた、新説・御蔵入騒動を演じる「現代版組踊 息吹 ~南山喜四郎伝」はじめ、全国にその輪は広がっています。
※4 西山グループ:1917年に設立された西山合名会社に始まり、100年以上に及ぶ企業グループです。現在は30社の企業群と公益財団保人によって構成され、四国を中心に全国に企業展開しています。
※5 都築さん:高知在住のカメラマン・都築憲司氏。このリーフレット制作時に写真撮影だけでなくデザイナーとしてアドバイスしてくださいました。
※6 フラクタルな精神構造:自分たちが存在する世界をフラクタル(拡大・縮小した相似形の重なり)で構成されており、この世で起こっているすべての事象は自らの思考の結晶と捉える考え方。※7 VISTA:O!Vision(大胆なビジョン)Ism(理念)Strategy(成幸に至る道筋)Tactics(戦い方の選択)Actions(中今の実践躬行)の意。