第三回:制約が磨く現場力

人が輝く日本流経営〜経営品質の視点から〜[文:大原 光秦]

 市販されているネッツトヨタ南国(以下ネッツ南国)のDVDをご覧になった方から、「素晴らしい社員さんたちですね」と言っていただくことが多い。それは彼ら彼女らと思いを分かち合いながら働いてきた者として嬉しい限りであり、また学習会の講師として全国の企業などに伺う機会が増え、ネッツ南国スタッフの圧倒的な相互扶助精神をあらためて実感し、時折、社に戻っては感動を覚えるところでもある。

 同社では、朝礼で「チームワークを大切に」と唱和したり、経営理念を書いたカードを配って浸透を図ったりすることはしない。世間には「学ぶ」とは「真似ぶ」であるとノウハウをただ真似する風潮もあるが、それは術策であり、正道ではないと考える。10年以上前、「ありがとう」を同僚に贈るサンクスカードを導入してみたことがあったが、すぐに廃れてしまった。導入の思惑として、コミュニケーションをよくしようとか、評価の妥当性を高めようという管理的な発想があったのだが、それらはいずれも問題対処。最初はカードを書くことをおもしろがっていたスタッフたちも、せっかくなら「現場で」「その都度」「心を込めて」伝えることが大切、と気付いていった。いくら効果が実証されている仕組みであったとしても、ただそれを真似するのではなく、自分たちの問題の本質に焦点を合わせ、自分ならどうするかを考え、対話することが大切だ。その試行錯誤の中で必然的に目的と向き合うこととなり、自然と経営理念が浸透し、独自の組織風土が醸成されていく。

 自分で考える。話し合う。やってみる。省みる。ネッツ南国ではこれを成長4原則とよび、その実践を重視する。たとえば、駐車場に線に引くことをしない。最適な車の停め方は状況に応じて一様ではない。それをその都度考える。多数決による意思決定もない。異なる考え方を尊重し、耳を傾け合うことによって、人を愛する力を育む。また、少数意見を尊重するところから、ドラマ仕立てやショー仕立ての奇抜なイベントが生まれることも多い。ゼロから企画を練り、みんなの力で実現していく。専門業者に外注することなしに、ほとんどすべての企画が大盛況のうちに幕を閉じる。しかし、成功したからといって、同じ企画を繰り返すことはしない。またゼロから再出発するのだ。成長4原則などと言うと、何やら先進的な仕組みがありそうに思われるが、逆である。合理性や効率性を高めるための仕組みを排除し、手間暇をかける機会を増やしているのだ。

 こうした取り組みを他社に紹介すると、「ウチは忙しくて」という感想が返ってくる。しかし、ネッツ南国とて暇なわけではない。むしろ圧倒的に忙しい企業の一つである。忘れてならないのは、忙しい時ほどに人間は無意識に振る舞うという事実だ。多忙感に支配され、厳しい表情で独りよがりに働くばかりならば、「仕組み」を導入することも求められよう。しかし、その解決を本質から考えたとき、多忙といえども周囲に心を配り、最善最適な振る舞いを実行できる無意識づくり、すなわち習慣形成が問われているとも認識できる。コミュニケーションの欠如ではなく、相手を思いやる心が育まれていないことが問題の本質である、という視点だ。現場力は、忙しい状況下での無意識の質で決まる。